性フェロモン剤調査 こぼれ話
協友アグリ株式会社
技術顧問 豊嶋 悟郎
天敵も性フェロモンも農薬
現在国内で販売されている全ての農薬は、国の様々な審査を経て登録を取得しています。これは化学合成農薬だけではなく、天敵製剤、微生物製剤も同じです。
農薬として販売されるからには、まず初めに防除効果があるものでなければ意味がありません。防除効果を評価するにはそれぞれの資材の作用機構に応じて適切な評価方法を選択することになります。
その一端として、性フェロモン剤の評価方法にまつわるお話をご紹介しましょう。
行動観察が効果の証
性フェロモン剤は農作物を加害する害虫(幼虫)を直接殺す資材ではありません。雄と雌が出会えないようにする交信攪乱や、雄だけを大量に集めてしまう大量誘引に利用され、次世代の密度を減らすことで効果をもたらします。交信攪乱効果を評価するには多くの準備が必要です。雌が雄と出会えないことを科学的に証明する必要があるのです。そのためには、交尾ができていないことを評価の対象とします。未交尾の雌成虫を大量に準備し、自然界にいる雄成虫と交尾できるかどうかを調査します。
その調査を性フェロモン剤処理エリアと処理していないエリアで実施し、性フェロモン剤処理エリアでは交尾ができていないことを明らかにします。
影で支える職人技
この未交尾の雌を大量に準備することが大仕事です。例えば、500頭の未交尾雌成虫を準備すると仮定しましょう。雄、雌の性比が1対1と考えても、倍の1,000頭の成虫を準備しないと雌500頭にはなりません。蛹から雄が出てくるか、雌が出てくるかは蛹の形態をしっかりと観察すると区別することができます。雌の蛹だとわかっていても、ちゃんと羽化してくるかどうかはわかりません。成虫500頭必要な場合はトラブルを見込んで600~700頭ぐらいの雌になる蛹を準備します。
雌成虫が500頭確保できればと言っても、調査を行うときに、ほぼ同じ羽化後日数の個体を500頭集めることは至難の業です。蛹の発育状態を毎日観察し、発育が進んでいる個体はやや低めの温度で飼育し、発育が遅れている個体はやや高めの温度に移してやります。こうして羽化後2~3日の雌成虫を大量に確保します。こうして考えていくと、5,000個ぐらいの卵の飼育から始めて、最終的に500頭の雌成虫を確保するのです。
実験に使う昆虫の準備だけでもとても大変な作業です。性フェロモン剤の効果の証明は、昆虫飼育担当の職人技によって支えられているのです。
評価のための裏話はまた別のお話…。