• Dr.協友のこぼれ話

水稲用除草剤ピラクロニルの農薬登録 ~国内から海外へ~

協友アグリ株式会社 登録部長
獣医師・獣医学博士 辻 良三

農薬の販売には登録が必要

農薬は、薬効・薬害試験以外に安全性試験が実施され、それらの結果について政府機関による審査を受けて問題が無ければ登録がなされ、晴れて上市となります。

必要な安全性試験としては、
①農薬の使用者に対する安全性
②農作物に対する安全性
③消費者に対する安全性
④環境に対する安全性
の4つの見地から数多くの試験が実施されます。

最近は、農薬のヒトへの健康影響のみならず、環境への影響についても注目されており、安全性における評価をクリアするハードルが高くなってきております。

日本の農薬登録

協友アグリが開発した水稲用の除草活性を有するピラクロニルは、農薬取締法に基づき2007年に登録がなされ、オモダカなど難防除雑草への高い効果が評価され、2014年には日本国内での普及面積No.1(日本植物調節剤研究協会調査結果に基づき算出)を取得するまでになりました。そんな中、2018年に農薬取締法が改正されて再評価制度が導入され、新たな安全性試験項目の実施、農薬使用者のばく露評価結果などの提出が必要となりました。ピラクロニルについては、ミツバチ、鳥類、コウキクサを用いた試験実施や使用者ばく露評価や文献調査等を実施する必要があり、2025年の再評価に備えて万全の準備をしています。

農薬の新規申請時に提出する資料(日本)。この約9割が安全性試験資料です。

米国に羽ばたくピラクロニル

~日米間の要求試験の違い~

米国でもカルフォルニア州などで稲作が盛んに行われています。薬効試験にて高い評価結果が得られたため、米国の販社とともにカリフォルニア州でのピラクロニルの登録取得を目指しました。米国での審査は、連邦機関である環境保護庁(EPA)と各州の担当局で実施され、両方の登録が必要となります。米国EPAは世界的にも農薬を含む化学物質の安全性評価レベルが高く、要求する安全性試験は多岐に渡ります。淡水域のみならず海水域の環境生物や鳥類の繁殖試験等も実施しなければなりません。それらの多くは、日本の農水省から要求される項目に挙げられていない試験であるため、日本国内の試験機関で実施できず、米国や欧州の試験機関での試験実施が必要となりました。さらに、カリフォルニア州は全米で最も審査が厳しいと有名です。数年の歳月と多大な資金を投じて数多くの安全性試験を実施し、登録申請しました。

~突如 立ちふさがる壁~

両当局の審査官らとの協議も経て、順調に審査が進んでいくと思われましたが、EPAが環境保護団体からの訴訟に敗訴したことの影響を受け、突然にESA(種の保存法)の運用が強化され、ピラクロニルの絶滅危惧種への影響評価が追加されることになりました。カリフォルニア州の稲作地域には、デルタワカサギいう魚が住んでおり、それらに対する影響がないことを示す必要が生じました。絶滅危惧種の魚を用いて安全性試験を実施することは当然出来ず、既知の種々のデータからその危険性が低いことを示すとともに、施用法を工夫することで、何とかクリアし、ESAの運用強化後に初めて新規登録された農薬原体となりました。カルフォルニア州登録は、稲作関係者の強い要望もあり、通常より速く、2024年2月8日に無事取得することができました。

世界で愛されるピラクロニルへ

稲作はアジアを中心に世界各国で行われています。ピラクロニルはすでにアジアでは韓国・タイで販売されており、年々使用量が増加しています。ピラクロニルは優れた薬効を有するため、世界各国での販売が望まれており、登録取得に向けて、必要な安全性試験を実施するなど準備しています。世界に羽ばたくピラクロニルにご期待ください。