侵入害虫との闘い イネミズゾウムシ
協友アグリ株式会社 東京支店長野営業所 技術顧問
農学博士 小林荘一
日本人の食を支える水稲は大陸から伝来して以来、毎年病害虫の被害に悩まされている。享保の大飢饉はウンカ類、天明の大飢饉はいもち病によるもので、多くの人命を奪った。近年我が国の水稲栽培に深刻な被害を与えたのは、北アメリカ原産のイネミズゾウムシで、1976年に愛知県で初確認された。
本種は、成虫は葉を、幼虫は根を食害するため、多発時には生育不良となったり欠株となる。
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イネミズゾウムシ成虫による食害
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根を幼虫が食害することにより生育抑制の発生
長野県(筆者の当時の勤務地)は中山間地で水稲を栽培するので、本種が侵入すれば深刻な被害を受けると想定された。そのため愛知県で初確認された直後から、長野県にも侵入すると想定し、国や各県の農業試験場と連携して調査体制を築いた。愛知県侵入から4年後の1980年に、長野県南部の南木曽町で初発見された。その後の分布拡大は急激であった。6年後1986年には長野県の水稲作付面積の約97%で発生し、7年後にはほぼ全県の水田で発生した。愛知県で初確認から10年後には、日本全国の水田で発生するようになった。
本種の越冬成虫は凍結した土壌中で生存し、高冷地の水田でも甚大な被害をもたらす重大害虫である。長野県では冷害回避のため、水田の標高に応じて移植するイネ苗サイズを変える耕種基準があり、それに応じた要防除水準を定める必要があった。他県での知見が乏しい中、それぞれの育苗様式に応じたイネ株当たり越冬成虫の被害許容密度を突き止めた。高冷地(標高800m以上)用の成苗移植では0.41頭、標高500~800mの中苗移植では0.33頭、低暖地(標高500m以下)用の稚苗移植では0.24頭、湛水土壌中直播では0.17頭である。
侵入時の防除手段は粉剤などの散布剤がメインであり、防除がなかなかうまくいかず苦慮していた。当時新しい防除技術の育苗箱への粒剤施用は、発生前から薬剤処理するので過剰防除だとの指摘を受けたが、省力的な苗箱処理剤の普及にはイネミズゾウムシの存在が大きいと思う。今日では高性能な長期残効型の育苗箱処理剤が普及したおかげで、イネミズゾウムシが猛威を振るうことは無くなった。
協友アグリは今年、新規殺虫成分「オキサゾスルフィル」を含む水稲苗箱処理剤「稲名人箱粒剤」「稲大将箱粒剤」の販売を開始した。両剤が水稲栽培の課題解決に役立つことを切に願う。
※:新規成分オキサゾスルフィルは新規作用を有する水稲用殺虫剤で、イネミズゾウムシをはじめウンカ類、イネドロオイムシ、イナゴ類、各種チョウ目害虫等の水稲に発生する多くの害虫に高い効果を示す。稲名人箱粒剤は2成分でいもち病との同時防除可能。稲大将箱粒剤は、新規の紋枯成分を追加し、3成分でほぼすべての病害虫の防除が可能。
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